全国ぬる湯サミット2010 in 佐賀県 古湯・熊の川温泉郷 2010年3月25日 講演会記録
これからの時代の温泉、ぬる湯とは
基調講演 ◆ 松田忠徳先生 〔札幌国際大学観光学部教授〕
参加温泉地一覧
新潟県 五頭温泉郷
三重県 榊原温泉
大分県 長湯温泉
大分県 壁湯温泉
長崎県 島原温泉
佐賀県 古湯・熊の川温泉 |
前回の第一回目の「ぬる湯サミット」以来、古湯・熊の川温泉郷の「ぬる湯」の良さに対する認識が深まり、この言葉が広まることはたいへん喜ばしいことです。
近年は、露天風呂付客室や貸切露天風呂など、温泉の泉質よりも施設の内容にばかり注目されてきたが、経営者が自分の生業である温泉体質の歴史文化性をもっと重視しなければなりません。
ぬる湯という名称は、現代ではあまりいい意味には取られていなかった名称だが、これを逆に堂々と採用していることはたいへん素晴らしい対応です。
九州は全国の温泉を中心になって牽引してきた。その力強さは九州ならではのものです。温泉経営者のサイドから「ぬる湯」を宣伝していくことは、大分県長湯温泉の「ドイツ風の飲泉文化」の提唱以来の画期的なことです。
1948年の温泉法により温泉に対する認識の変化がおきてしまった。温泉の成分または温度によって「温泉」と呼べるようになった。地下水の温度が25度以上であれば、あまり有効な含有物が無くても温泉と呼べるようになりました。
なぜ25度以上を温泉と呼ぶことにしたのかという明確な理由は無いようで、基準の設定については科学的な根拠に基づいたのではなかったようです。そのため、地下水や水道を沸かして入るのと、25度の温泉を加熱したものとの違いは明確になっていないのが現実。 どこが違うのでしょうか。
むかしは「鉱泉」という言葉が温泉の常識だった。信州には「鉱泉」と呼ばれる温泉がたくさんあるが、温泉法の定義の影響で鉱泉を温泉以下のもののように認識されてしまった。暖かい鉱水を温泉と呼び、冷たい鉱水は冷鉱泉と呼びます。ということは、本来、温泉にはすべての何らかの有効成分が含まれていた。
日本ではミネラルウォーターの販売には様々な規制があり、加熱殺菌しなくてはならない。世界では良いミネラルウォーターはそのままボトリングする。 しかし、日本では加熱殺菌が基本。日本のミネラルウォーター販売の基準は世界では笑われモノともいえる。
ヨーロッパの文献を調べると、昔の日本全国の温泉についての文献も数多く残されている。当時は、日本の温泉も様々な泉質が認められており、新潟には「石油泉」という温泉もあった。石油混じりの温泉で、入るときには表面の油をすくってから入ったらしい。こんな温泉もあったが現代の温泉法では認められていない。石油泉は、その油を体に塗るとアトピーなどの皮膚病も治ったそうです。
科学が発展しているなかで、私たちはもう一度科学的に温泉を認識しなくてはならなりません。「ぬる湯」 「ぬるま湯」 「冷たい」ということを悪いこととされてきた歴史の中で、「健康のためにはぬる湯が一番良い」ということを、広く知らせるべきです。
お客様が帰るときにフロントで・・・
「おかげさまでよく眠れました」 と言われたら、これは、実はすばらしいほめ言葉。温泉経営者としては最高のほめ言葉かもしれません。よく眠れたということは、普段あまりよく眠れないで苦労をしていた人が、温泉にゆっくり入ったから体温が上昇し、血流を促進したおかげでぐっすりと眠ることができたということが、人間の体の中で起きています。人間は、睡眠をためることはできないが、「健康を貯金する」ことはできます。温泉で健康を回復して貯金して帰りましょう。天与の恵みの温泉を正しく利用すれば、長生きすることができます。
「湯は無我にして常に自然に従うものなり」という言葉があり、温泉に入るときは余計なことを考えずに、無心で静かに入らなくてはなりません。
江戸時代には車が無かったので、温泉までたどり着くことはとても大変なことでした。そのため山中の温泉などは、一度行けば1ヶ月ほどはゆっくり逗留していました。現代になり、科学技術が発達してくると、遠くの温泉に通うよりも、都会に科学的な温泉を作ろうとした時代がありましたが、やはり、天然の温泉とは違い効果が無く、やがてなくなりました。
薬も昔ながらの漢方などの天然のものが、次第に西洋科学的な薬になった。いま、日本人だけが「薬は万能」だと思っている。風邪を引けばすぐに薬を飲み、熱が出ればすぐに薬を飲む。
クスリは「毒」にもなるし「薬」にもなるといわれる理由は、薬と毒薬は、その量の違いだけであり、少量なら体に効果があるかもしれないが、多すぎると体を壊す毒薬にもなる。それを、日本では認識されていない。症状が重ければ薬の量を増やそうとします。江戸時代にはアジアの漢方医学が世界のなかで一番だったが、今は違う。日本人は西洋医学が最高だと思っている。
先進国アメリカでも薬よりも代替医療の利用が多くなっている。欧米では代替医療と統合医療に変化してきていて、西洋医学と代替医療を通して、伝統の医学の素晴らしさを再認識している。 伝統医学は「病気を防ぐ予防医学」であったが、今の日本は病気になってから薬で治すことばかりで、強い薬をたくさん飲みたがるから、2週間、1ヶ月ものクスリを大量にもらい、患者は胃を悪くするから胃薬も一緒にもらう。 それは、量が多ければ胃を壊すほどの毒になっているということ。
医療費の問題だけに限らず、病気になった人を助けるより、まず病気にならないようにすることが大切。
年間34万人ががんで亡くなり、交通事故により亡くなる方は500万人。病気にならない体づくりが必要。
日本は温泉がとても多い。日本の温泉は世界の宝として考えるべき。アジアの宝と考えるのがいい。ジャパン・イズ・ナンバーワンで産業機械を輸出してきた時代が続いたが、これからは、アジアの中の日本として、観光客誘致を目指して欲しい。そのためには、ヨーロッパの中のフランスになること。フランスは、日本と同じ農業国家で、車も生産する。観光客が多く、人口よりも多い。フランスの人口は6500万人、海外からの観光客は8000万人。日本は人口1億2000万人で、海外からの観光客は800万人。中国からでさえ103万人しか来ていない。中国人は、一度は欧州にも行って見たいけれど、やはりアジアが好き。日本はブランド品が安いから行きたい。でもまだ僅かしか来ていないのが現状です。
ぬる湯のお湯に浸かるとぐっすり眠れる。これは、睡眠薬よりもすばらしいことです。いま、自殺者が増えていることが大変な問題となっています。昔は、失恋といえば女性が多く、失恋の傷を癒すために温泉への一人旅へ出かけるものでした。ところが、今は町のクリニックつまり精神科でこっそり精神相談している。昔は病院で精神相談をすることは精神病くらいのものだったが、いまは保険が利くし、病院名もカタカナが多くなりおしゃれな感じで相談に行く人が増えています。
昔は温泉で気持ちを癒すことができた。ゆっくりのんびり温泉に浸かり体も心も癒すことができた。ぜひ、温泉旅館経営者の皆さんにもっと情報発信してほしい。湯治してどれだけ体に効くのか、ココロが癒されるか。具体的に明示しなければ誰も温泉には行きません。「湯治はいいけど、どれだけ良いかわからないから行きにくい」という気持ちになる。温泉湯治に来る人が減って、薬漬けの人が増えたというのが現実。
うつ・心身症の病院での治療では、薬漬けになってしまう。病院ではとにかくたくさんの薬を出します。何が原因かは判らないから薬をたくさん出すしかないし、患者もクスリが多いほど安心する。診療報酬も増える。
昔からの温泉地で、長い口伝えでアトピーが治る、うつが治るという温泉も数多くあります。それは、確かに多くの人が治ったから言い伝えになっているので、それを実証するために、自分たちでデータを積み重ねて、何に効くのかを分析することが必要です。私はこれまで病院に入院したことがありません。痛風、尿路結石などの病気が私には危険です。ゆっくり湯治をしたいという希望はあるけれど、どういう効果があるかわからないところには行かない。
これまで2回、温泉に入って自分で結石を出したことがあります。前回の結石のときは、あまりの痛さに、これはもう入院かと思って医者に行ったが、なぜ石が出来るか医者に聞いても、石の成分を分析しないとわからないという。私が知りたいのは、成分ではなくて、なぜ私は結石ができやすいのかということ。食事に問題があるのか?生活習慣に原因があるのか。それを知らなければ今後も結石を防ぐことはできない。
けれども医者は、原因はわからないと言う。 これでは医者は駄目だ。どんなに医療の技術が発達しても、つねに人間は自分で自分の力を知らなくてはならなりません。
「湯は無我にして常に自然に従うものなり」
無我の境地で自然体になり温泉に接することと言う意味で、江戸の医学者は、「子供が湯に戯れるように入りなさい」ともいった。せっかっく温泉にきてゆっくり風呂に入っていても、仕事のことをお風呂に入りながら考えては駄目ですリラックスができません。
「急がば回れ」
シャワーではなくゆっくりお湯につかることが健康維持にとっては大切。日本人はおおらかにゆったりと温泉に浸かる心を持っていたはず。心無いところに文化はない。お湯はただの物質になってしまう。
ぬる湯は病気を治すお湯。私は、昔は熱いお湯が大好きでしたが、歳をとってくると物のよさを認めることが出来るようになる。温泉はぬる湯のほうが体に良い。もう一度 ぬる湯のよさを再確認して、それぞれの旅館で入浴方法を考えなくてはなりません。家庭の湯でも自由に温度を決められる時代だが、入浴方法を間違っている人が多い。湯上りの過ごしかたが間違っているので、病気になる人が増えている。
近年アメリカでは、がんが減っている。健康志向の影響で、ヘルシーな日本食に向かっていて、知識人は皆痩せている人が多い。世界の食事の中でむかしの日本食が世界でもっとも健康的で素晴らしい食事だということが、アメリカで発表されました。栄養学でがんを消すことができます。どんな食べものががんに効くか等の研究は、先進国の中では唯一日本だけしていない。
最近、栄養食品がテレビコマーシャルに多くなってきたことに気付いていますか。国民が求めているから、そして売れているからますます高価なコマーシャルを流すことができるようになります。国民は医学だけでは病気の発症を予防できないと気付いてしまった。そして、温泉も予防医学にすばらしい効果がある。
ヨーロッパでは温泉は貴族のもので、一部の人しか入浴することができなかった。今の中国も同じで、温泉は一部の富裕層のためのもの。日本は違います。江戸時代から庶民のもので、手ぬぐい一本持って裸で入る。湯治をするのも、それが体にいいと知っていたから毎年利用していたわけで、病気が良くなったから、また通い続けたのです。温泉は、昔も今も、疲弊しているカラダと心を癒している。 それを温泉経営者はきちんと知っていますか。本当に困った皮膚アレルギーを温泉で治すこともできます。
温泉の経営者の皆さんは、自分のお湯で何かを治す努力をして欲しい。毎晩必ず温泉に入って、具合が悪いからだの箇所があれば、自分で入浴法を工夫して温泉に入って欲しい。どういう風に入ると効くとか、お客さんに教えてあげて欲しい。ぬる湯にいつも入っている人は、入り方が上手。逆に熱い風呂に我慢して入ると風邪をひきやすくなります。
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